便失禁とは?
「便失禁」とは=「便漏れ」のことです。
それに比べて「尿失禁」のことは、「尿漏れ」と呼びます。
便失禁の原因
便失禁になる原因は、様々ありますが、大きな原因の一つが「骨盤の下側の広がり」による場合があります。
↑「恥骨結合」と書かれているところが、「骨盤の下側」です。
↑骨盤を「底」からみたときのイラストです。
「骨盤の下側」が広がると、「肛門」の部分が横に引っ張られて、便が漏れやすくなるのは、イメージが沸きますでしょうか?
「骨盤の下側」が広がってしまうと、骨盤底筋に日常生活の中で力が入りづらくなって、緩んできてしまいます。
すると、さらに骨盤底筋が緩んできてしまう、という悪循環がスタートしてしまいます。
一般的には、「出産」や「加齢」が原因といわれることが多いですが、
・「出産」している人はあきらめなければいけないのでしょうか?
・「70歳以上」の人はあきらめなければいけないのでしょうか?
そんな事は無いと思います。
便漏れの前に起こりやすいこと
便が漏れる前に、直腸瘤(ちょくちょうりゅう)の症状がでたり、尿漏れも併発しているケースもたくさんあります。
直腸脱とは?
直腸脱とは、どんな病態をいうのでしょうか?
「不完全直腸脱」と、「完全直腸脱」
「お尻から少し奥に入ったところの直腸」が肛門の外側へ脱出する状態です。
脱出した直腸が粘膜のみであれば「不完全」直腸脱、全層であれば「完全」直腸脱と呼びます。
直腸が10cm近く、飛び出してくる患者様(「完全」直腸脱)も珍しくありません。
では、どうやって対策したらよいのでしょうか?
直腸脱(便失禁)を良くする方法
下半身美人ベルト
その中で、一つ大切なポイントがあります。
骨盤ベルトをただ「骨盤の下側」に巻くだけでは、「骨盤底筋」は鍛えられないということです。
「骨盤の下側」に巻いた状態で、骨盤の底に力をいれると、骨盤底筋にしっかり力が入りやすくなるのですね。
ですので、巻いて積極的に骨盤底筋体操をできたり、骨盤ベルトを「骨盤の下側」に巻いて歩行ができるということが大事なポイントです。すると、徐々に骨盤底筋が鍛えられるようになってきます。
※「寝たきり」で歩行が出来ない場合は、効果がそれほど期待できません。
直腸脱(便失禁)の手術
何科にかかればよい?
「大腸肛門科」や「直腸肛門科」
など、「肛門科」とつく名前の科であれば、間違いないかと思います。
直腸脱(便失禁)手術の種類
腹腔鏡下 直腸脱手術(直腸固定術)
手術もヒポクラテスの時代から、現在まで多くの記録があり、100種類以上の手術法が報告されております。
その中で、現在は、手術法がアプローチ法により大きく分けて2種類に分類されています。
お尻側からアプローチする「経会陰手術」と、お腹側からアプローチする「経腹手術」です。
経会陰手術(お尻側からアプローチ)
「経会陰手術」は、お腹を開ける必要がなく、脊椎麻酔(下半身麻酔)で施行される場合が多いため、手術侵襲が少ない利点がありますが、再発(手術して一旦収まっていた直腸がまた脱出してくる)率がやや高い欠点があります。
人の名前がついた多くの手術法(欧米ではほとんど行われていないですが、日本では一番ポピュラーなガント・三輪・ティールシュ手術の他、デロルメ手術、アルテマイヤー手術など)があります。
経腹手術(お腹側からアプローチ)
「経腹手術」は、全身麻酔が必要で、お腹を開けるため手術侵襲がやや大きくなる欠点がありますが、再発はほとんど認めないという大きな利点があります。
多数の手術法がありますが、基本的には脱出した直腸を、お腹の中から剥離し、吊り上げて固定する操作を行います。
直腸脱(便失禁)手術の方法【まとめ】
1,直腸、結腸を単位固定する方法
・Kummel法:仙骨前縦靱帯(せんこつぜんじゅうじんたい)に固定
・Jeannel法:小腰筋(しょうようきん)に固定
・Moore:腹横筋(ふくおうきん)、内腹斜筋(ないふくしゃきん)に固定
2,直腸を剥離、挙上し、周囲に固定し癒着をはかる方法
・Bacon法(ベーコン法):小腰筋腱部(しょうようきんけんぶ)に固定
・Sudeck法:仙骨岬角(せんこつこうかく)に固定
・Pemberton-stalker法:直腸剥離挙上後、骨盤壁(こつばんへき)、骨盤臓器(こつばんぞうき)へ固定し、ダグラス窩(ダクラスカ)の閉鎖も行う。
・Orr法:広筋膜片(こうきんまくへん)で、直腸を仙骨へ固定
・Riapatein法:teflon mesh(テフロン メッシュ)で固定
・Wells法:Ivalon spongeで固定
3,骨盤底の補給をはかる方法
・Roscoe-Graham法:恥骨直腸筋(ちこつちょくちょうきん)の縫縮を行い、さらにダグラス窩の閉鎖と、S状結腸 直腸移行部(えすじょうけっちょう ちょくちょう いこうぶ)を仙骨岬部(せんこつ こうぶ)へ固定。
4,逆重積する方法
・Devadahar法:重積をおこす部位を逆に重積させ、しわ縫合を併用する。
5,前方切除術による方法
・Theuerkanf法:前方切除術を行って固定
6,Douglas窩の閉鎖をはかる方法
・Moschcowits法:巾着縫合で、ダグラス窩を閉鎖
7,多数の補給をはかる方法
・Dunphy法:会陰式に肛門挙筋を縫縮し開腹して、直腸の剥離、ダグラス窩閉鎖、腸管切除、固定を行う。
直腸脱(便失禁)手術の費用
通常の国民健康保険および高額療養費制度の対象となります。
いろいろな術式がありますが一つの例として、
術式名:「直腸切除・切断術」(低位前方)(ハルトマン手術)
入院日数:10日
70歳未満・3割:490,000円
70歳以上・1割:57,600円
70歳以上・2割:57,600円
70歳以上・3割:100,000円
入院期間
手術の種類が多くあるため、一概には言えませんが、1週間から10日ほどが、一つの目安となります。
直腸脱(便失禁)手術のメリット・デメリット
メリット
手術が成功した場合、でているものが出なくなることで、直腸脱の違和感や異物感がでなくなること、日常生活での便漏れがなくなることは、生活の質を向上させることにつながります。
デメリット
出ていた直腸がでなくなることで、違和感、異物感がなくなっても、手術後に痛みや引き連れ感などがしばらくの間、残ったりする可能性もあります。
また「下着の汚れ」「しまりの悪さ」「便の出にくさ」「残便感」などが出る可能性もあります。
直腸脱(便失禁)手術のリスク・後遺症や合併症について
以下、日本大腸肛門病会誌 42:981-986,1989「特集 直腸に起因する排便障害」
治療 1:直腸脱の病態と治療「社会保険中央総合病院 大腸肛門病センター」様より引用させていただいております。
合併症
「腹式術式」の合併症として具体的にみられたものとして、イレウス(腸閉塞)、腹壁ヘルニア、性機能障害などがあります。
「Bacon(ベーコン)変法」(小腰筋腱膜に固定する方法)は、
手術を要するほどのイレウス(腸閉塞)を26例の内の2例、7.7%
「直腸=剥離仙骨前固定法」(直腸の固定を仙骨前にする方法)は、
手術を要するほどのイレウス(腸閉塞)を37例の内1例、2.7%
に認めた。
直腸の固定を仙骨前にする「直腸剥離仙骨前固定法」より、小腰筋腱膜に固定する「Bacon(ベーコン)法」の方が術後腸管走行が不自然であるためか、イレウス(腸閉塞)になる率は高かった。
また成績に現われないまでも術後に、輸液や沈腸、下剤の投与などの保存的なイレウス(腸閉塞)治療を要した症例もBacon(ベーコン)法に多くみられる傾向にあった。
他の合併症としては、
腹壁ヘルニアを「直腸剥離仙骨前固定法」の1例、
性機能障害を「Bacon(ベーコン)法」の1例、
に認めた。
一方 、「Gant(ガント)」、「三輪」+「Thiersch(ティールシュ)法」の合併症としてみられたものは、Thiersch(ティールシュ)施行部の感染、結紮糸の弛み、直腸脱の嵌頓(かんとん)などである。
嵌頓(かん‐とん)とは?= 腸管などの内臓器官が、腹壁の間隙(かんげき)から脱出し、もとに戻らなくなった状態。 嵌頓ヘルニア。
最近、5年間における67症例(再手術4例)の検討からみると、
ThierschК(ティールシュ)施行部の感染は11例、16.4%(11/67例)
結紮糸の弛みは2例、3%
直腸脱の嵌頓(かんとん)を術後11目目に生じた1例
を認めた。
感染を起こした際の結紮糸の材質は
シュロッカー7例、
ナイロン3例、
絹糸1例
であり、
シュロッカー22例中の7例、3.8%
ナイロン29例中の3例、10.3%
が感染を起こしていたことになる。
一方、結紮糸の弛みは、2例ともナイロン糸であった。
再発率
直腸脱に対し行ってきた、さまざまな術式の評価を再発率から検討してみる。
まず「会陰式術式」と「腹式術式」を比較してみると、当然のことながら
侵襲の大きな腹式術式の方が、平均再発率が9.7%と、
会陰式の平均再発率30.6%
に比し少なく、成績が良かった。
ついで、各術式別に成績を比較してみると、
会陰式ではもっとも良いのが、
Gant(ガント)一三輪法の23.8%
直腸粘膜縫縮法の26.3%
逆に成績の良くないのは、
Re・hn・Delorme(デロルメ)法 66.7%、
肛門挙筋直腸後壁縫縮法 57.1%
であった。
腹式では、Bacon(ベーコン)法 が3.9%ともっとも良い成績であり、
ついで前方切除法 12.5%、
直腸剥離仙骨前固定法 13.2%
の順となっていた。
アンケート調査から見た手術の成績
術後の症状の改善度に対して、はがきによるアンケート調査を行い調べたことがあるが、そのデーターをもとに術式の成績をみる。
1976年から1985年末までの直腸脱手術症例98例を対象とし、術式別に下着が汚れる、しまりが悪いなどの症
状が術後に存在するか否かについて調べた(回答率,62/98例,63%)。
「術後も症状がある」と答えたものは、
Gant(ガント)一三輸+Thiersch(ティールシュ)法 は2/27例、7.4%
直腸剥離仙骨前固定法は、2/21例、9.5%
前方切除術1/6例、16.7%
Rehn-Delorme(デロルメ)法2/3例、66.7%、
肛門挙筋、直腸後1壁縫縮術4/5例、80%
であった。
また、われわれが昭和60年以降、直腸脱に対する術式の第一選択として行なっている「Gant(ガント)―三輪+Thiersch(ティールシュ)法」の成績をより詳しく調べるために、今回1984年から1988年までの最近5年間の同術式施行患者63名に、はがきによるアンケート調査を行った(1989年5月施行、回答率48/63名,76.2%)。
手術を受けて良かった否かについて質問した後、下着の汚れ、肛門のしまり、便の出にくさ、残便感(排便後、すっきりしない)などの各項目について、術前よりの改善の度合いについて質問した。
「手術をしてよかった」は、わずか8.3%!
無回答:例を除き、現在ある愁訴について調べてみると、
下着の汚れについては55.9%(19/34例)
しまりの悪さについては52.9%(18/34例)
便の出にくさは57.9%(22/38例)
残便感は55.9%(19/34例)
があると答えていた。
つぎに、術前と比べての改善度について見ると、
下着の汚れでは64.6%(20/31例)が、
絞まりの悪さは52.9%(18/34例)が、
便の出にくさでは45.7%(16/35例)が、
残便感は65.2%(15/23例)
が改善されたと答えていた。
このように、各症状とも術後にもかなりの頻度で存在し、また想像するほど改善は認められていなかった。
※このように手術後の「改善率」や「再発率」について一つの参考のデータとして、まとめらている事は本当に素晴らしいことと思いますし、お医者様の努力に経緯を払うべきと思います。以下の先生方がまとめられています。社会保険中央総合病院大腸肛門病センター 岩垂純一先生 隅越幸男先生 小野力三郎先生 黄田正徳先生 山本清人先生 東光邦先生 吉永栄一先生 小路泰彦先生 奥田哲也先生
直腸脱(便失禁)手術の【まとめ】
術式によって、再発や、合併症がでてしまう確率がかなり変わってくるということが、一つのデータから読み取れると思います。